地球温暖化による食品(作物)の毒化

 タイトルを見て、なぜ地球温暖化と食品の毒化するのか疑問に思うのが一般的であろう、しかし、農家の人から見れば思い当たる節はあるのではないだろうか?

 現在、地球温暖化のため、乾燥ストレス、塩ストレス、熱ストレスなど様々なストレスが植物にかかり、人口が増加しているにもかかわらず、得られる食糧が減少することが懸念されている。それに対応すべく、乾燥ストレス、熱ストレス、塩ストレスがかかっても枯れずに収穫できる作物の研究(植物事態の体力をつけるバイオスティミュラント(BS)、遺伝子的にストレスに強い植物(遺伝子操作植物)など)が盛んに行われており、各国政府も熱心に対応策を検討しているのが現状である。

 

 確かに食糧危機は問題視されるべき重要な問題である、しかし、この地球温暖化において、実はもう1つ懸念すべき問題がある。アフラトキシンという化合物をご存じであろうか?こちらはアスペルギルス属が生成するカビ毒である。アスペルギルス属は熱帯、亜熱帯地域に主に生息、日本では九州南部に生息しており、生息の疑いがある地域としては北緯35度(千葉県)あたりまで対象地域と言える。

 参考サイト:アフラトキシンhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%88%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%B3、アスペルギルス属http://mycotoxin.or.jp/wp-content/themes/pdf/kinsek.pdf

 

アスペルギルス菌は高温・乾燥の環境下でアフラトキシンを生成するため、地球温暖化下において、作物がストレスで弱った場合、アフラトキシンに汚染された作物量が増えることがわかっていただけると思う。

とりわけ、ピーナッツは、世界中の熱帯・亜熱帯地域の数百万エーカーの土地で栽培され、国際的に大きな需要があり、多くの食卓で重要なタンパク質源として役立っている。

 このように熱ストレス、乾燥ストレスに対して、抵抗力を持つ植物を作り出すことは、食料問題だけでなく、世界的な発展途上国において、経済的にも人々の健康面でもメリットがあり、アフトラキシンが許容量を収穫された農作物の廃棄によるメタンガスの増加の抑制など地球環境をさらに守るといった点でも重要な取り組みであることがわかっていただけると思う。確かに農薬や人工的な化学品を用いた作物、遺伝子操作をした作物を口にすることに危険性を感じる気持ちはよくわかる。しかしながら、こういった処理をしなくては、より毒性の高い作物を口にする可能性があることをご理解することも必要であると考える。現在、農薬などの使用登録に関して、高い安全性データの提供が求められている点から考えても、こういった農薬などの資材を用いる有用性に改めて考えるべきではないかと思う。

参考サイト:https://news.agropages.com/News/NewsDetail---42216.htm

今後の日本における肥料産業の展開

近年、肥料の価格が高騰していることは農家にとって周知の事実であろう。これは世界的なトレンドでもあり、さらに日本においては、日本経済の停滞による円安、新型コロナウイルスの感染拡大によるサプライチェーンの混乱により、輸入品に依存している肥料の高騰化は世界平均より大きいといえる。

<米国の肥料価格動向> 出典:肥料価格の急騰継続を業界大手2社が予想-食品インフレ悪化の恐れも - Bloomberg

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肥料の主要成分のトップ生産国には、中国、ロシア、カナダ、モロッコベラルーシなどがあげられるが、ロシアのウクライナ進行による、ロシアへの経済制裁が返って肥料高騰に影響することがささやかれている。

 それを受けて米国農務省(USDA)は、アメリカにおいて革新的な肥料製造に向けて、2億5000万ドル(約300億円)の投資計画を発表している。現在、肥料鉱物の供給の制限、エネルギーコストの上昇、世界的な肥料需要の高騰、肥料輸入への依存、肥料競合の欠如など多くの要因により、アメリカでは昨年から肥料価格は2倍になっている。

USDAはこのサポートを受ける方針を下記のように挙げており、米国内における肥料産業の発展を鼓舞している。

  • 独立性:主要な肥料供給メーカーでないこと(価格競争の活性化)
  • アメリカ産であること:国内の高給の雇用創出と海外供給依存の低減
  • 革新的技術:次世代肥料の開拓、生産
  • 持続可能:再生可能エネルギー使用、温室ガスの影響を低減
  • 農家重視:米国農業物生産者に支援と機会を提供

参考サイト:https://news.agropages.com/News/NewsDetail---42187.htm

 

一方、日本に焦点を移して、農林水産省のページを見てみると、作物の品質や収量を維持しつつ、肥料のコスト低減を図る方法を整理する事例集の作成、また、令和3年度補正予算において、農家が活用できる「肥料コスト低減体系緊急転換事業(予算額:45億円、補助率:土壌診断経費は定額、肥料コスト・施肥量の低減技術の導入経費は2分の1以内)」を措置などの記述がある。

 

農林水産省ホームページより

<肥料のコスト低減を図る方法>

  • 配送費を減らしてみませんか
  • 安価な肥料銘柄に替えてみませんか
  • 肥料の購入先を見直してみませんか
  • 土づくりに力を入れてみませんか
  • 土壌診断や土壌管理アプリを使用してみませんか
  • いろいろな施肥量の低減技術を導入してみませんか

引用サイト:https://www.maff.go.jp/j/seisan/sien/sizai/s_hiryo/210528.html

 

 米国の方策としては、産業の活性化であり、日本の方策としてはコストカットによる対応であることが一目瞭然である。これはやはり、日本の肥料市場は農家減少に伴い減少しているのに対し、世界の肥料市場は成長しているという状況に他ならないと考える(2021年初頭の予測でCAGRは約4%)。

<日本の肥料市場の推移>

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出典:https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2383

 

 ここからは、筆者の独断と偏見であるが、日本においては肥料資源がないため、やはり肥料生産することは難しいと考える。一方で世界と比較した際、日本におけるメリットとしては、海が多いため、海藻が多く取れることに注目したい。つまりは海藻を肥料に活用できないかと考える。海水には肥料に必要なリン塩、カリウム塩、窒素などが含まれているため、当然として海藻には上記のものが含まれている。技術的にはだ改良が必要かと思われるが、こういった取り組みが今後日本では必要でないかと考える。現状、海藻を肥料として活用する技術は全くないわけではなく、下記リンク先のようにバイオスティミュラント(BS)として活用が知られてきているのが現状である。

参考サイト:https://ecologia.100nen-kankyo.jp/column/single150.html

バイオスティミュラント(BS):正確には肥料の位置づけではなく、植物が本来持っている能力を最大限に発揮できるようにする資材であり、医薬でいうところの漢方、栄養ドリンクなど感覚を持っていただけると幸いである。現状、日本において正確な切り分けはできていないが、欧米州などにおいては、地球温暖化に備えて展開が広がっている分野である。有名なものであればBASFのAgCelenceⓇなど、収量増加の宣伝がなされている。

参考サイト:https://www.basf.com/jp/ja/who-we-are/microsites/agcelence.html

 

 直近における日本の特許を調べてみると、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構より、海藻と農薬の混合による作物収量の増加実施報告が報告されているのがわかる。

(特開2022-007998:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2022-007998/30E270A25471D188BCDA9DC033B74B3354760AF6347258BF4A310807E662F5AF/11/ja)。今後の日本においては、こういった海藻などを用いたBS産業の活性化などが必要となるのではないかと考える。

ジャガイモに寄生する線虫(シストセンチュウ)の新規防除方法

 作物を生産にあたって線虫(センチュウ)という虫の存在をご存じであろうか?フィラリアというのはご存じかと思う、フィラリアは犬の肺動脈や心臓に寄生し、血液循環疎外を起こし、結果として、心臓につながる大きな血管を塞ぎ、血尿や貧血、呼吸困難などをともなう急性症状を起こし急死する症例などを発生させる寄生虫である。植物おいても同様に寄生し、植物を枯らすのがセンチュウであり、分類学上でいうと「線形動物門」に属する動物類の総称を示している。センチュウは細長い無色透明のミミズのような糸状の直径約0.03mm、体長は0.3〜1mmほどであり、肉眼での確認は難しい。

下記サイトがセンチュウに関してよくまとめられていたのでリンクを貼っておく。

引用サイト:https://ibj.iskweb.co.jp/feature/2021/11859/

(シストセンチュウの生態サイクルについても確認してください)

 

 今回、注目しているのは2週間ほど前に英語記事になっていたのは既に確認していたが、直近においても類似記事が上がっているのでこちらを紹介したいと思います。

参考サイト:https://news.agropages.com/News/NewsDetail---42198.htmWrap-and-plant technology to manage sustainably potato cyst nematodes in East Africa | Nature Sustainability

 

 ジャガイモに寄生するジャガイモシストセンチュウ(Globodera rostochiensis)は世界的な脅威であり、寄生された場合、根は損傷し、黄色がかった葉となり、生産されるジャガイモは小さくなり、しばしば病変で覆われるため販売することが出来ないといった状況となる。日本においては、北海道、青森、長崎などで発生が確認されている南米産の外来種となる。現在、アフリカにおいては特に問題となっており、センチュウが発生した土地において、同じ植物を育てることは非常に難しく、シストセンチュウは10年以上土壌中で生存することがすでに確認されています。

ジャガイモを他の作物と交互に植え、土壌に農薬を散布し、感染に抵抗するために育てられた品種を植えることによって、センチュウを防除することが方法としてありますが、発展途上国においてこの方法は農薬などの費用的な面、熱帯地域でるための品種適合性、低価値作物の植え付けの回転生産などから現実的でないと考えられています。現在、ケニアではシストセンチュウの範囲が拡大しており、ジャガイモ農家は、森林を伐採し、新しい畑を作っているのが現状と言えます。

 

 上記に示すような状況下において、新規防除方法が報告されています。その方法とは、ジャガイモの種(種イモ)をバナナより作られた紙(以下バナナペーパーと称する)に包み、植えるといった方法となります。これはバナナペーパーが若いジャガイモ植物の根から放出されるシストセンチュウが孵化する際検知する化学物質をバナナペーパーが吸収することにより、シストセンチュウの孵化が抑えられるといったメカニズムとなるそうです。また別の実験においては、孵化したシストセンチュウにおいてもバナナペーパーに包まれたジャガイモの根を見つけることが出来ず寄生できないことも判明しているとのことです。

 

 センチュウが発生しているケニアの畑において、バナナペーパーで包んだジャガイモを植えたところ、使わない場合と比較し収穫量は3倍となり、バナナペーパーに農薬をしみこませる場合では使用量が通常の散布と比較し、200分の1で収穫量はさらに50%増加するとのことです。現在、山芋やサツマイモなど他の作物においても良好な結果が得られている状況とのことです。ケニアや近隣諸国にはバナナ農園も存在しており、現在廃棄物として処理されている繊維をうまく活用することにより、地球環境にも優しく、農家も助かる方法として将来有望な方法であると考えられています。

海外におけるデジタル農業の発展と進捗

【背景】

農業は世界中の5億人以上の小規模農家の生計を立てている状況であるが、限られた農業知識、資金調達の困難、リスク管理能力の低さなど、様々な要因のため生産性を著しく制限されている状況である。

農業業界においては、自然災害であるコロナ・パンデミックの影響でさえ、農薬・作物の流通遅延の発生による作物収穫量の低下が発生している。今後の数十年の規模で考えた場合、世界的な気温上昇による自然災害が発生することは明らかであり、これに対して対応が世界的に求められている。

 

日本においても、農林水産相地球温暖化対策が議論されており、現時点において、①コメ:白未熟粒、②果物:ブドウなどの着色不良、③野菜:着花・着果不良、④高温による開花時期の前進・遅延、奇形花の発生などが報告されている状況である。

参考データ:https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/ondanka/attach/pdf/index-106.pdf

 

日本においては、目に見えるような乾燥・高温による農業被害は感じないかもしれないが、世界の農作物生産現場においては、乾燥・高温影響は明確に現れてきている。このため海外大手であるBayer、BASF、Syngentaは各社様々な手法により、地球温暖化に向けた環境変化をビジネスチャンスととらえ、新たな事業展開を実施している。この展開は、農業におけるインフラを展開しているものであり、GAFAのように基盤を作り上げている状況であり、今後日本への影響は非常に大きいと考える。

 

【目次】

  1. Bayerの展開戦略予測
  2. BASFの展開戦略予測
  3. Syngentaの展開戦略予測

 

1.Bayerの展開戦略予測

Bayerのデジタル農業への対応:デジタルプラットフォーム

 世界規模で見た場合、エネルギー産業に次いで農業は炭素ガス(地球温暖化ガス)排出量の8.4%を埋めており、農業は実は地球温暖化への影響は大きいとされている。炭素ガス排出量を低減させた農家にお金を配給するなどの対応も取られており、農家にとって炭素ガス排出量を減らすことは、コスト低減とともに収入を上昇させる魅力的な話であることが分かる。Bayerはこれら農家をターゲットとし、2020年ブラジルと米国で農家中心とした土壌炭素隔離プログラム(farmer-centric soil carbon sequestration program)を開始、2021年欧州においてグローバルカーボンイニシアチブ(Global Carbon Initiative)を立ち上げている。また、BayerはBushel and Amazon Web Services(AWS)を活用し、農家にサプライチェーン全体の炭素外出量を追跡し、環境に与える影響を緩和するためのテクノロジーサービスを開始している。

参考サイト:https://www.agriculture.com/news/technology/bayer-launches-digital-carbon-footprint-measurement-solution

他、気候フィールドビュー(Climate FieldViewTM)情報を提供することにより、合理的な農家の経営を援助し、より多くの情報に基づき農家が状況判断できるよう展開を広げている。

 

2.BASFの展開戦略予測

 BASF:XarvioTM ブランド展開

 (XarvioTM SCOUTING、XarvioTM FIELD MANAGER、XarvioTM HEALTHY FIELDS)

 BASFのデジタル化の展開としては3種のXarvioTMシリーズに注力している。

XarvioTM SCOUTING:圃場内の異常を写真で検知する機能であり、作物対象で50種まで増加、病気および害虫に関しては200種類、雑草においては250種類対応できるようになっており、この識別能力は増加を示している。

参考サイト:https://www.xarvio.com/jp/ja/products/scouting.html

XarvioTM FILED MANAGER:栽培管理支援システムであり、作付けする作物の情報、気象情報、人工衛星からの画像データをAiで解析し、その圃場に合った最適な管理を可能とするデジタルソリューション。

参考サイト:https://crop-protection.basf.co.jp/xarvio-Digital-Farming-Solutions

XarvioTM HEALTHY FIELDS:農作物収量を約束するだけでなく保障するサービス

(https://www.youtube.com/watch?v=17mJNnZB0CI)

上記対応展開により、現在BASFは下記のサービス提供が可能な状況となっている。

提供サービス

説明事項

成長モニタリングサービス

2021年3月、BASFはVAnderSAtと協力し、農作物(バイオマス)の画像データを農家に提供し、成長を一貫して監視できるサービスを確立している。

スマートスプレー

2021年6月、BASFはRavenBosch、AGCOと協力し、標的型噴霧技術の開発に取り組み、効率の向上に取り組んでいる。

農業アドバイス

2021年6月、XarvioTM SCOUTINGはAGvisorPROに統合され、農業アドバイザーとリアルタイムで連絡を取ることが可能となっている。

病害虫の同定およびモニタリング

2021年5月、BASFはPesslと協力し、XarvioTMの画像解析を活用することによって、果樹と野菜の収穫量の増大に成功させている。

気象データ

2021年11月、PesslのMETOSとSencropのデータを統合し、農家向けの気象ステーションディバイス接続オプションを提供。

2021年2月、Sailent Predictions, inc.と商業契約を締結し、世界で最も正確な長期季節気象予報データを顧客に提供することが可能となっている。

 

3. Syngentaの展開戦略予測

Syngenta:Cropwise Platformの統合

 

 Syngentaは2019年に東欧のCropioを買収し、2021年にプラットフォーム統合の最終段階に入っていると思われる。Cropwiseは農地の遠隔監視を容易にする衛星フィールド管理システムであり、現在の畑・作物の状態のリアルタイムデータを提供し、植生状況を把握し、問題のある領域を特定するとともに、正確な天気予報を提供するサービスである。Cropwise Protectorは2020年6月ブラジルにおいて販売が開始され、この監視データにより、農場マップ、可視化、分析チャートを作成が可能となり、作物生産に対するリスク軽減および正確な状況判断が可能となるシステム構築を実現している。

 SygentaはBayer、BASFと比較すると、米国・ブラジル、欧州においては、展開が若干遅れているように感じるが、syngentaの資本のある中国において、MAP(Modern Agriculture Platform) beSideTMを立ち上げており、これにより、農家が気候に配慮ながら、非常に高品質で追跡可能な作物を栽培することが可能となるサービスを提供しており、プレミアム価格で商業バイヤーに販売することが可能となっている。中国は人口が多いため、農作物の消費量も多く、下記に一部を示すが、世界一の生産量となっているものも多い、Syngentaはこの生産拠点を死守すべく対応しているものと思われる。

 

中国の農産物生産量順位 データ元 : GLOBAL NOTE 出典: 国連

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