海外におけるデジタル農業の発展と進捗

【背景】

農業は世界中の5億人以上の小規模農家の生計を立てている状況であるが、限られた農業知識、資金調達の困難、リスク管理能力の低さなど、様々な要因のため生産性を著しく制限されている状況である。

農業業界においては、自然災害であるコロナ・パンデミックの影響でさえ、農薬・作物の流通遅延の発生による作物収穫量の低下が発生している。今後の数十年の規模で考えた場合、世界的な気温上昇による自然災害が発生することは明らかであり、これに対して対応が世界的に求められている。

 

日本においても、農林水産相地球温暖化対策が議論されており、現時点において、①コメ:白未熟粒、②果物:ブドウなどの着色不良、③野菜:着花・着果不良、④高温による開花時期の前進・遅延、奇形花の発生などが報告されている状況である。

参考データ:https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/ondanka/attach/pdf/index-106.pdf

 

日本においては、目に見えるような乾燥・高温による農業被害は感じないかもしれないが、世界の農作物生産現場においては、乾燥・高温影響は明確に現れてきている。このため海外大手であるBayer、BASF、Syngentaは各社様々な手法により、地球温暖化に向けた環境変化をビジネスチャンスととらえ、新たな事業展開を実施している。この展開は、農業におけるインフラを展開しているものであり、GAFAのように基盤を作り上げている状況であり、今後日本への影響は非常に大きいと考える。

 

【目次】

  1. Bayerの展開戦略予測
  2. BASFの展開戦略予測
  3. Syngentaの展開戦略予測

 

1.Bayerの展開戦略予測

Bayerのデジタル農業への対応:デジタルプラットフォーム

 世界規模で見た場合、エネルギー産業に次いで農業は炭素ガス(地球温暖化ガス)排出量の8.4%を埋めており、農業は実は地球温暖化への影響は大きいとされている。炭素ガス排出量を低減させた農家にお金を配給するなどの対応も取られており、農家にとって炭素ガス排出量を減らすことは、コスト低減とともに収入を上昇させる魅力的な話であることが分かる。Bayerはこれら農家をターゲットとし、2020年ブラジルと米国で農家中心とした土壌炭素隔離プログラム(farmer-centric soil carbon sequestration program)を開始、2021年欧州においてグローバルカーボンイニシアチブ(Global Carbon Initiative)を立ち上げている。また、BayerはBushel and Amazon Web Services(AWS)を活用し、農家にサプライチェーン全体の炭素外出量を追跡し、環境に与える影響を緩和するためのテクノロジーサービスを開始している。

参考サイト:https://www.agriculture.com/news/technology/bayer-launches-digital-carbon-footprint-measurement-solution

他、気候フィールドビュー(Climate FieldViewTM)情報を提供することにより、合理的な農家の経営を援助し、より多くの情報に基づき農家が状況判断できるよう展開を広げている。

 

2.BASFの展開戦略予測

 BASF:XarvioTM ブランド展開

 (XarvioTM SCOUTING、XarvioTM FIELD MANAGER、XarvioTM HEALTHY FIELDS)

 BASFのデジタル化の展開としては3種のXarvioTMシリーズに注力している。

XarvioTM SCOUTING:圃場内の異常を写真で検知する機能であり、作物対象で50種まで増加、病気および害虫に関しては200種類、雑草においては250種類対応できるようになっており、この識別能力は増加を示している。

参考サイト:https://www.xarvio.com/jp/ja/products/scouting.html

XarvioTM FILED MANAGER:栽培管理支援システムであり、作付けする作物の情報、気象情報、人工衛星からの画像データをAiで解析し、その圃場に合った最適な管理を可能とするデジタルソリューション。

参考サイト:https://crop-protection.basf.co.jp/xarvio-Digital-Farming-Solutions

XarvioTM HEALTHY FIELDS:農作物収量を約束するだけでなく保障するサービス

(https://www.youtube.com/watch?v=17mJNnZB0CI)

上記対応展開により、現在BASFは下記のサービス提供が可能な状況となっている。

提供サービス

説明事項

成長モニタリングサービス

2021年3月、BASFはVAnderSAtと協力し、農作物(バイオマス)の画像データを農家に提供し、成長を一貫して監視できるサービスを確立している。

スマートスプレー

2021年6月、BASFはRavenBosch、AGCOと協力し、標的型噴霧技術の開発に取り組み、効率の向上に取り組んでいる。

農業アドバイス

2021年6月、XarvioTM SCOUTINGはAGvisorPROに統合され、農業アドバイザーとリアルタイムで連絡を取ることが可能となっている。

病害虫の同定およびモニタリング

2021年5月、BASFはPesslと協力し、XarvioTMの画像解析を活用することによって、果樹と野菜の収穫量の増大に成功させている。

気象データ

2021年11月、PesslのMETOSとSencropのデータを統合し、農家向けの気象ステーションディバイス接続オプションを提供。

2021年2月、Sailent Predictions, inc.と商業契約を締結し、世界で最も正確な長期季節気象予報データを顧客に提供することが可能となっている。

 

3. Syngentaの展開戦略予測

Syngenta:Cropwise Platformの統合

 

 Syngentaは2019年に東欧のCropioを買収し、2021年にプラットフォーム統合の最終段階に入っていると思われる。Cropwiseは農地の遠隔監視を容易にする衛星フィールド管理システムであり、現在の畑・作物の状態のリアルタイムデータを提供し、植生状況を把握し、問題のある領域を特定するとともに、正確な天気予報を提供するサービスである。Cropwise Protectorは2020年6月ブラジルにおいて販売が開始され、この監視データにより、農場マップ、可視化、分析チャートを作成が可能となり、作物生産に対するリスク軽減および正確な状況判断が可能となるシステム構築を実現している。

 SygentaはBayer、BASFと比較すると、米国・ブラジル、欧州においては、展開が若干遅れているように感じるが、syngentaの資本のある中国において、MAP(Modern Agriculture Platform) beSideTMを立ち上げており、これにより、農家が気候に配慮ながら、非常に高品質で追跡可能な作物を栽培することが可能となるサービスを提供しており、プレミアム価格で商業バイヤーに販売することが可能となっている。中国は人口が多いため、農作物の消費量も多く、下記に一部を示すが、世界一の生産量となっているものも多い、Syngentaはこの生産拠点を死守すべく対応しているものと思われる。

 

中国の農産物生産量順位 データ元 : GLOBAL NOTE 出典: 国連

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